分子イメージング研究は、化学研究・ライフサイエンス研究・物理/工学研究・コンピューターサイエンス・医学/薬学研究の融合により成し遂げられるものであり、分子論的研究と統合システム的研究、基礎基盤研究と臨床研究の間の橋渡しを行う重要な研究であると位置づけられています。特に、昨今の創薬パラダイムの大きな変換潮流の中で、分子イメージング研究は、“Evidence-based Medicine”(科学的根拠に基づく医療)を推進するための中核研究と考えられています。
「イメージング」という言葉は、画像を意味することが多いですが、決して定性的なものでなく、標的分子を機能している生体まるごとの中で定量的に追跡していく高度な技術です。その高度さゆえに、これまで我々人類が創成してきた多くの追跡技術を革新していく要素が随所に存在します。また、薬剤分子の標的到達性や血液中のみならず臓器/細胞中も含めた薬物動態には小動物とヒトとの間に大きな種差がみられることから、ヒトにおける真の薬物動態を追跡するための直接的研究を、早い段階で安全に適用することが望まれます。これらの2つの理由により、分子イメージング研究には、多数の研究領域の研究者の真の意味での融合体制が必須であり、このような新融合研究領域を担っていく人材の育成も非常に重要であります。
平成17年(2005年)7月に、文部科学省より分子イメージング研究の重点的推進を図る「社会のニーズを踏まえたライフサイエンス分野の研究開発『分子イメージング研究プログラム』」が開始され、理化学研究所において、「創薬候補物質探索拠点」の整備を行ってきました。平成18年秋には、神戸市はじめ関係各位のご支援により神戸MI R&D センタービルが竣工し、理化学研究所分子イメージング研究プログラム(MIRP)の研究施設ができました。平成20年10月には、研究の一層の推進を図るため、分子イメージング科学研究センター(CMIS)へと組織改正し、現在では6チーム3ユニット体制に拡充しております。
この第1期『分子イメージング研究プログラム』の期間中は、基盤技術開発だけでなく、他の研究機関も含めて様々な共同研究を実施することで、オールジャパンの研究体制を構築し、生活習慣病をはじめ、各種疾患をターゲットにした多数の新規分子プローブを開発するなど、創薬と疾患診断、治療指標の開発に寄与してきました。
さらに、平成22年(2010年)4月からは、これまでの研究成果を臨床での応用・実証研究へつなぐ『分子イメージング研究戦略推進プログラム』が文部科学省により開始され、当センターは拠点として大きな役割を果たすことが期待されております。我が国の分子イメージング研究のさらなる推進、国際共同研究体制の発展のため、分子イメージングを用いた創薬開発及び予知医療(早期診断・早期治療)などの革新的医療技術確立を目指し、鋭意、研究を展開していく所存です。是非、分子イメージング科学研究センターの内容をご理解いただき、皆様のご指導・ご支援を賜りますようお願い申し上げます。