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膜透過ペプチドの併用により、腸管からのインシュリン吸収をPET分子イメージングで確認

糖尿病は、血液中から糖を細胞内に取り込むための”インスリン”というホルモンの不足や、インスリンがうまく働かないことで起こる病気です。そのため糖尿病の患者には、不足したインスリンを投与して補う必要があります。

しかしインスリンは消化されやすく、また消化管から血液中に吸収されにくいペプチドでできているため、経口投与することができず、毎回注射しなければなりません。これは患者にとって苦痛を伴うものです。このことから、経口投与できるインスリンを作ることは、薬剤学の大きな目標の一つと言えます。

星薬科大学の森下真莉子准教授らはインスリンを効率良く腸管から吸収するための研究を行っており、腸管内で膜透過ペプチドをインスリンと共存させることで、インスリンが腸管から吸収され血糖値が下がることを見出しました。 しかしどのような膜透過ペプチドで効果が高いのか、またどのくらいのインスリンが吸収されたのかを定量的に明らかにすることが難しい問題がありました。

今回、森下准教授らと理化学研究所 分子イメージング科学研究センター 複数分子イメージング研究チームの金山洋介研究員および分子プローブ動態応用研究チームの長谷川功紀研究員らの共同研究により、インスリンにポジトロン放出核種を標識し、その体内動態を陽電子放出断層撮像法(PET)で解析する手法を開発しました。この手法により、膜透過ペプチドによってインスリンが腸管から吸収され、各臓器へ分布していく様子を解析することに世界で初めて成功しました。

 

PET画像解析の結果、消化管から吸収された標識インスリンは瞬時に肝臓を通過し、標識インスリンもしくはその分解物が腎臓に集積することを確認しました。膜透過ペプチドとしてR8およびペネトラチンを併用した場合には、肝臓、腎臓および全身循環における標識インスリン量が非併用時と比較して著しく上昇し、それに伴いインスリンの効果が現れ、明らかな血糖低下作用が認められました。 以上のように、PET分子イメージング手法を利用することにより、薬剤吸収とクリアランスをリアルタイムに追跡し、消化管から吸収された薬剤の各臓器への分布を生体で定量解析することが可能となりました。本手法は、ターゲット臓器へのより効率の良い薬物送達システム開発のための強力なツールとなり、将来苦痛を伴わない薬物療法を開発するための礎となる結果です。 本研究成果は、科学雑誌『Journal of Controlled Release』(Volume 146, Issue 1, Pages 16-22)への掲載、および同誌のCover Storyにて紹介されました