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複数分子同時イメージング装置の実用化に向けたデジタル信号処理装置の開発

複数分子イメージング研究チーム  福地 知則


分子イメージング技術の一つである陽電子放出断層撮影法(Positron Emission Tomography; PET)は、陽電子(ポジトロン)を放出する放射性核種を組み込んだ分子を体内に投与し、陽電子と電子の衝突により発生する消滅ガンマ線を検出することでその位置と量を画像化する方法です。PET撮影は、生体への負担が軽い非侵襲的な臨床検査法としてがん検診などで広く用いられています。しかしPETは原理上、1回の測定で1種類の放射性核種しか検出できないため、複数の分子を同時に追跡することはできません。

複数分子イメージング研究チームは、PETを補完する次世代分子イメージングとして、ガンマ線イメージング装置(Gamma-Ray Emission Imaging; GREI)を開発しました。GREIはPETよりも広い領域のガンマ線を捉え、複数の分子が放出する異なるガンマ線を同時に識別し、その空間分布を視覚化できます。GREIを用いた複数分子の同時イメージングは世界で私たちが初めて成功し、現在、この装置の実用化を目指した高度化開発を進めています。

GREIは、ガンマ線センサーとしてゲルマニウム半導体検出器を使用しています。ゲルマニウム半導体検出器はガンマ線を高い精度で識別して検出することができますが、GREIの性能(解像度、感度)を向上するためには、半導体検出器からのガンマ線検出信号の形状(波形)を高速にで解析する必要があります。今回私たちは、GREIに特化した波形解析を実現するために、信号波形を最初の段階でデジタル数値に変換し、デジタル演算処理によりガンマ線の検出エネルギー、時刻、位置を導出する装置を開発しました。これにより半導体検出器からの信号波形をオンラインで高速処理することが可能となり、従来のアナログベースの装置と比較して、より複雑な波形解析を可能にするとともに、信号処理によるタイムラグを最小限に抑えることに成功しました。またこの信号処理装置は、書き換え可能なデジタル演算器(Field-programmable gate array;FPGA)を複数個連結できる設計にしたことで、GREIに特化した波形解析から他のアプリケーションにまで幅広く応用することができます。

なおこれまでは信号処理装置のほとんどを国外の技術に頼っていましたが、私たちはデジタル信号処理装置を国内企業のテクノエーピー社と共同で開発しました。今後は、日本発のGREI開発がますます加速することが期待できます。

* この研究成果は、『IEEE Transactions on Nuclear Science』(Volume 58, Issue 2, Pages 461 - 467)に掲載されました。




デジタル信号処理装置の外観