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PET検査で緑内障を早期に見つける
      -目の病気を脳で調べる新しい診断法-


分子プローブ機能評価研究チーム 林 拓也 



日本における失明原因のトップは緑内障によるもので、40歳以上の5%にみられる非常に発症頻度の高い疾患です。緑内障の初期症状は、視野の中に「暗点」とよばれる見えない部分が現れることですが、暗点は視野の周辺部分から少しずつ広がり、また普通は両目でものを見るので、見えない部分があることになかなか気づきません。さらに目の痛みやかゆみなどの自覚症状もないため、診断が遅れ、知らないうちに病気が進行していくことが多くあります。緑内障にかかっている方のうち、実際に通院・治療を受けているのは20%以下といわれています。

緑内障は、何らかの理由で眼圧が長期間にわたって高いままになり、その結果視神経や網膜が傷つくためにおきると考えられています。しかし中には、眼圧は正常にも関わらず同様の病態が進行することがあり、眼圧の測定だけでは緑内障を診断できないことが分かってきました。また緑内障で障害を受けるのは視神経だけでなく、目からの情報を受け取る脳神経のほうにより強く影響が現れる可能性も指摘されています。そのため、緑内障を早期に確実に診断できる新しい方法の開発が望まれています。

今回研究チームは、人為的に高い眼圧を誘導した緑内障モデルサルを用い、緑内障患者の脳内で何が起きているかを分子イメージングで調べました。脳神経の異常はしばしば炎症反応を伴うことが知られており、そこでは免疫担当細胞であるマイクログリアが活性化します。早期の緑内障に相当するサルでPET検査を行ったところ、目からの視神経が脳の神経とシナプスを作る最初の場所(外側膝状体)でマイクログリアが活性化していることを発見しました。また緑内障の進行に伴い、外側膝状体の神経変性が起きることも病理組織検査で確認できました。これらの結果は、これまで目のみの疾患と考えられてきた緑内障が、脳のPET検査で正確に診断できる可能性を示すものです。今後この検査法をヒトに応用し、非侵襲な緑内障の早期診断法として実用できるか研究を進めて行きます。

*この研究は、岐阜薬科大学薬効解析学(原英彰教授ら)の研究グループと、理化学研究所分子イメージング科学研究センター(渡辺恭良センター長)分子プローブ機能評価研究チーム(尾上浩隆チームリーダー、林拓也副チームリーダー、山中創リサーチアソシエイト)などとの共同で行いました。
*この研究成果は、『PloS ONE (Volume 7 Isuue 1)』(2012年1月27日電子版公開)に掲載されました。
*本研究の一部は、平成17年度~平成21年度に実施された文部科学省委託事業「分子イメージング研究プログラム」の助成を受けて行われました。


緑内障モデルサルのPET画像。11C-PK11195 をPETプローブとし、活性化されたマイクログリアのライブイメージング(live imaging)を行った。頭部の断面(冠状面)像で脳の外側膝状体を示す。緑内障誘導前(左)では脳内にPETプローブのシグナルは確認できないが、緑内障早期(右)では、左右両側の外側膝状体で11C-PK11195の集積が観察された(黄矢印)。