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移植されたES細胞の脳内での機能的な変化をライヴイメージングで検証


分子プローブ機能評価研究チーム  川崎 俊之



超高齢社会を迎え、加齢に伴って進行する疾患の治療がますます重要な課題となっています。体の動きがスムーズに制御できなくなるパーキンソン病は50歳代から60歳代で発症することが多く、根本的な治療法のない難病の一つです。パーキンソン病の原因は、ドーパミンを産生する神経細胞がなんらかの理由で変性するためと考えられており、近年、失われたドーパミン神経細胞を移植で補う再生医療の可能性が期待されています。有望とされているドナー細胞には、ES細胞(胚性幹細胞)、iPS細胞(人工多能性幹細胞)などの幹細胞があり、効率の良いドーパミン細胞への分化誘導法はいくつか開発されていますが、どのような分化状態の細胞が最も安全(移植片が腫瘍化しない)で治療効果が高い(移植片が生着し機能する)かについては、まだ理解が進んでいません。

今回研究チームは、ヒトES細胞を用いたパーキンソン病治療の効果や副作用を詳しく検討するため、培養日数が短く分化度が低いドーパミン神経細胞と、培養日数が長く分化度が高いドーパミン神経細胞を用意しました。これらを人為的にパーキンソン病の症状を再現したカニクイザルに移植し、MRIおよびPETによる移植片のライヴイメージングで、それぞれの腫瘍形成能やドーパミン産生能の違いを調べました。その結果、未分化な移植細胞が腫瘍を形成してもPETで検出可能であること、分化度が高い移植細胞は腫瘍化せずにドーパミン産生細胞としてはたらくことが示されました。これらの事実は病理組織検査によっても確認されました。またパーキンソン病の症状を改善させる効果があったのは、分化度の高い移植細胞だけでした。

今回の成果から、ES細胞を用いた移植治療では、移植細胞の分化度を制御し効果的で安全性の高い手法を確立できる可能性があること、並びにMRIやPETなどの分子イメージング技術が移植治療を非侵襲的に検証する評価法として非常に有用であることが示されました。今後さらに、移植細胞の高精度なライヴイメージングを実現し、ヒトへの応用の際にもこの手法が適用できるよう研究を進めていきます。

*この研究は、京都大学再生医科学研究所およびiPS細胞研究所(土井大輔研究員、高橋淳准教授ら)の研究グループと、理化学研究所 分子イメージング科学研究センター 分子プローブ機能評価チーム(尾上浩隆チームリーダー、林拓也副チームリーダー、川崎俊之研究員)との共同で行われました。研究の詳細はこちらをご覧ください。
*この研究成果は、『Stem cells』(2012年2月電子版公開)に掲載されました。

正常サル パーキンソン病モデルサル ES細胞を移植したパーキンソン病モデルサル
ドーパミン神経細胞を
検出するPET画像
ドーパミン神経細胞が消失 移植細胞がドーパミン神経細胞を
産生している
MRIでの移植細胞像に
PETの腫瘍シグナルは見られず
    細胞移植後12ヶ月